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万引き犯写真の公開について

2月8日の毎日新聞によると、千葉市内の大手コンビニ店舗で、客の防犯カメラ画像に「万引き犯です」と書き加えたポスターが、2週間にわたり店内に張り出された。コンビニ本社は、外部から本社への指摘により、店舗に指示して剥がさせたという。

同日の産経新聞によると、神戸市のコンビニでも、「数カ月前から店内のトイレ付近に約20枚の(万引犯の)画像を張り出していた」という。

今回のコンビニの行為は、法律的に許されるのだろうか。

小野智彦弁護士は、「それくらいの見せしめは必要だと思いますし、貼り出した店側が法的責任を問われることはないと考えます。」と述べ、法律的には問題ないという見解だ。同弁護士によれば、名誉毀損の問題にはなりうるが、「誰が見ても万引き犯だと特定できるような不審な行動」が防犯カメラに写っていた場合には、名誉毀損の罪にも賠償責任にも問われないという。

一方、甲南大学法科院教授でもある園田寿弁護士は、名誉毀損の正当化事由である①公益性②公益目的③真実性の証明のうち、②公益目的を満たさない可能性があると指摘する。自力救済としても正当化できないし、「被害者自らが被害回復を行うことを無制限に認めることには、制度的なパニックを引き起こす危険性」すらあると述べる。

私は、今回のコンビニの行為は、違法ではないと考える。もっとも、社会的あるいは倫理的批判に値するか否かは別問題だ。

たとえば、営業時間外の店舗で侵入盗事件が発生したとする。店の防犯カメラには、レジから現金を取り出す瞬間の犯人が撮影されていた。店が、この写真を警察に提出するほかに、店舗の外壁に張り出した場合、この行為は違法になるだろうか。違法とする弁護士は、ごく少数と思われる。

この設例が違法にならないとするならば、冒頭のコンビニの事例は、「万引の瞬間が撮影されているか、または誰が見ても万引き犯だと特定できるような不審な行動が撮影されている場合」であるかぎり、違法にならないと考えるほかない。双方の店主の内心には、被害回復という私的目的や復讐心も含まれているかもしれないが、だからといって、「専ら公益を図る目的」がないとはいえないので、名誉毀損にはあたらないと考える。

では、犯人が逮捕され被害が回復された後も顔写真を張り出すことはどうか。報道によると、どこかの鮮魚市場では、「私は万引をしました」と書いた札を掲げた万引現行犯人の写真が複数枚掲示されているという。

この場合、改正個人上保護法(5月20日施行予定)が、「犯罪の経歴」を要配慮個人情報として特段の保護の対象にしていることは、同法が業法であって刑法上民法上の適法違法と直接の関係がないとはいえ、参考にされるべきであろう。他方、犯人検挙後の写真掲載であっても、同種犯罪の防止という公共性や公益目的はあろう。また、最高裁判所は、児童買春禁止法違反罪で略式命令を受けた男性が、氏名を検索すると表示される逮捕記事の削除をgoogleに求めた訴えを退けた。「(記事の削除請求は)当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」に限り認められるとする判決文から推測すると、万引犯の写真を逮捕後も当該店舗に掲示する限度においては、違法とされない可能性がある。

ところで、今回のコンビニ事件と類似したものとしては、2014年の8月、中古ショップ「まんだらけ」が万引犯の顔写真をネットに公開し、商品を返却しなければモザイクを外すと発表し話題になったことがある。このときは、警察の要請に基づき公開は行われなかった。また、2月9日の朝日新聞によれば、東京都のメガネ販売店が、万引犯と思われ男性の画像をホームページに掲載し、警察に出頭するか弁償しなければモザイクを外すと警告しているという。

これらの事例は、ネットでの公開である点が、コンビニ事件とは異なる。公開範囲が広い分、被撮影者の名誉やプライバシー権等に対する侵害が強いといえるが、検挙前である限り、犯人検挙という公益目的が認められるので、違法とまではいえないように思う。

もっとも、そう考えるなら、なぜ警察はモザイク外しの中止を要請したのか、が問題となる。おそらく、警察が守ろうとしたのは、被撮影者の人権ではない。「犯罪の捜査と検挙は警察が独占する」という価値観そのものと思われる。悪く言ってしまえば「縄張り意識」にほかならないが、この価値観が、わが国の秩序なり治安なりを守ってきたことも事実であろう。この価値観から、万引犯人写真の公開を批判する見解は、尊重に値するけれども、この批判は、あくまで社会的倫理的批判であって、法的批判(=違法だと批判すること)とはいえないだろう。

万引犯人の写真を公開することの是非をめぐる論争は、一見法的論争のように見えるが、その本質は、犯罪捜査を専ら警察に任せるべきなのか、被害者自身もある程度やってもよいのか、という社会政策的倫理的な問題に存する。その意味では、「(万引犯写真の公開を許すことは)制度的なパニックを引き起こす危険性がある」とする園田寿弁護士の指摘は、正鵠を射ていることになろう。

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