百貨店などに設置されている防犯カメラの映像は、一定期間が経過すると自動的に消去されるが、例外として、万引などの犯罪行為が録画された場合、その映像は保存される。かかる保存行為が合法であることについて、議論の生じる余地はすでにないと思われる。
しかし、百貨店など施設管理者が保存する映像は、実は犯罪行為だけではない。クレーマーや、店内で宗教勧誘やナンパを行う者の映像を保存していると公言する事業者もいる。
もとより万引犯にも肖像権やプライバシー権はあるが、店側にも被害回復のため証拠を保全する権利がある。万引など犯罪行為の場合に、店側の権利が優先することについて争いはなかろう。だが、必ずしも犯罪とはいえないクレーマーや、宗教活動やナンパについては、来店客の肖像権やプライバシー権が優先するとはいえないのだろうか。
個人情報保護委員会のQ&Aの6-7には、「いわゆる不審者、悪質なクレーマー等からの不当要求被害を防止するため、当該行為を繰り返す者を本人とする個人データを保有している場合」を前提とする記載がある。このことから、個人情報保護委員会としては、「いわゆる不審者、悪質なクレーマー等が当該行為を繰り返す場合」に記録することは適法と解釈しているものと思われる(もっとも、このQ&Aはカメラ映像ではなく、氏名、電話番号及び対応履歴等としている)。
しかし、百貨店などの顧客は、店に対して買物に専念する債務を負うものではないから、店内で求愛行動をしたり、宗教的勧誘行為をしたりしても、直ちに違法になるわけではないし、店の対応に非があれば、苦情を述べる正当な権利を有する。これらの映像を保存することは、明らかに行き過ぎだろう。
店側の立場に立ち、犯罪行為の記録は当然として、犯罪に至らない民事上の違法行為については証拠保全の権利があると考えたとしても、店内でのナンパや宗教勧誘行為、苦情を述べる行為が、すべて民事上の違法行為になるわけではない。
このように考えてくると、個人情報保護委員会が「悪質なクレーマー等の…繰り返し」に限定してQ&Aを作成しているのは、いいかえれば、「悪質ではないクレーマー」や、「悪質なクレームでも繰り返しにあたらない場合」に記録することは違法、と限定する意図を含むものと解される。
だがそれでも、「悪質」性や、何回目からが「繰り返し」かを誰がどの基準で判断するのか、という問題が残る。店側が専権的に判断でき、だれもチェックできないなら、歯止めがないことと同じだからだ。
また、「防犯カメラ」という利用目的でありながら、犯罪でない行為の保存が許されるのか、という問題もある。
結局のところ、「悪質なクレーマーの…繰り返し」行為についてのみ、記録・保存は合法であるとする個人情報保護委員会の見解は、その妥当性を客観的に判断する仕組みが無いかぎり、中途半端である、といわざるを得ない。
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