イオンモールなどの警備を請け負うイオンディライト株式会社(本社 大阪市中央区南船場)は、2014年度2月期決算短信において、「イオンモール大日にて顔認証システムの導入が決定した」と公表した。
イオンモール大日は、大阪府守口市にある大規模商業施設である。
顔認証システムの詳細は不明。特定顧客の顔認証情報を登録しておいて、その顧客が来店したときに、警備員の注意を喚起するシステムと想像される。ワオンカードとの連携も、技術的には不可能ではないが、現在の技術水準では精度が足りないし、管理が面倒だし、法的問題もあるので、実施しているか否かはわからない。
顔認証システム導入と運用の目的は、主として万引対策だろうが、クレーマーを含む不良顧客や不審者対策、顧客に対する痴漢や盗撮等の不法行為対策などもあり得るだろう。逆に、超お得意様対策も、技術的には可能だ。
このシステムに、法的問題はないだろうか。防犯カメラそのものの設置や運用には問題ないことを前提として考えてみる。
まず、個人の顔画像や顔認証情報は、それによって特定の個人を判別できるものである限り、個人情報に該当するから、みだりに取得することは、個人情報保護法違反や民法上の不法行為を構成する可能性がある。従って、あらゆる顧客の顔認証情報を無許可かつ一律に取得することは、明らかに違法だ。一方、万引や痴漢などの現行犯の顔画像を保存したり、そこから顔認証情報を取得したりすることは、許されるだろう。クレーマーなどの問題顧客を登録することは、利用目的を公表していない限り、個人情報保護法に違反する可能性があるが、民法上の不法行為に該当するか否かについては、微妙な部分もあろう。
顔認証情報の取得や保存が合法でも、法人格をまたいで他の店舗等に提供することは許されない。ただ、その法人が警備を請け負う他の店舗で使用することは、現行法上は問題ない。
万引犯などの可能性があるというだけで顔認証情報を取得することは違法だろうか。一見明らかに違法にみえるが、そうとも断言できない。警備の実態に即して考えてみれば、万引対策は、まず挙動不審者の顔認証情報を取得し、その顔認証情報をもとに、その後の立ち寄り先の動静を監視することによって現行犯逮捕に至ると想定されるからだ。かつてスリ専門の警察官に教えてもらったが、「スリと痴漢は目を見りゃわかる」らしい。したがって、挙動不審者の一時的な顔認証情報登録は許さざるをえないが、犯罪者等でないことが明らかとなった時点で登録解除されるべきであろう。
問題なのは、問題顧客の顔認証情報登録や解除が適正になされているか否かを確認する手段がないことだ。登録したことを通知するといっても、万引の現行犯で取り押さえられた顧客には通知可能だろうが、逃げおおせた者もいるだろうし、決定的な場面を録画されずに済んだ者も多いだろう。悪質なクレーマーなどの問題顧客に「あなたは顔認証システムに登録されました」と告知するというのも、現実的ではない。
警備会社の立場からすれば、「私は顔認証システムに登録されていますか、登録されていませんか?」と聞かれても、答えることはできない。悪用されるリスクが高いからだ。また、個人情報保護法上の開示請求(24条)を行うことができるかについては、防犯カメラの映像は「保有個人データ」(個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加又は削除、利用の停止、消去及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データ(個人情報データベース(特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの)等を構成する個人情報)であって、その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるもの又は一年以内の政令で定める期間(6ヶ月)以内に消去することとなるもの以外のもの)に該当しないから開示義務はないという見解がありうる(おそらく裁判例はないが)し、仮に開示義務があるとしても、「記録されていません」と回答された場合、強制的に確認する法的手段が存在しない。
したがって、現行法を前提にする限り、ある人が顔認証システムに登録されたか否かを確認することは、事実上不可能ということになる。
「私は全く身に覚えがないから関係ない」と思われる人が大半だろうが、そうともいえない。間違って登録されることもあるし、他人の登録情報と似ているというだけで、システムが人違いを起こすこともあろう。
そのうえ、ある種の精神疾患を患っている人が、些細な出来事をきっかけに、「顔認証システムに登録されたに違いない」と思い込むことがある。実際、私の事務所には、最近、このようなご相談が複数よせられている。医師に相談しなさいと申し上げているのだが、ご本人は確信しているから、皆、絶対に間違いない、何とかしてくださいと言い張る。そのような方の多くは善良でまじめだから、間違いを起こすことはないが、絶対とは言い切れない。
顔認証システムと情報開示の運用については、知恵を出し合って、適切なルールを定めておかないと、近い将来、思わぬ悲劇を招く可能性がある。
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。