公衆浴場の更衣室に、防犯カメラが設置されるようになって、久しく経つらしい。
新聞を見ると、最初の報道は平成11年3月24日の讀賣新聞朝刊「男子脱衣所に防犯カメラ 利用者から賛否両論 下仁田町営『荒船の湯』」との見出しで、男子脱衣所で盗難事件が発生したため、警察から防犯ビデオカメラ1台を借りて設置したが効果が無かったため、60万円を投じてビデオ二台を購入「防犯カメラ」と大きく表示したところ、盗難はなくなったという。
記事は、「人権侵害とまではいえない」とする前橋地方法務局の見解や、利用客の賛否の意見を紹介したうえ、「『防犯カメラを購入するお金があるのならカギつきロッカーを備えたら』というもっともな意見もある」としている。
平成21年3月30日、小泉郵政改革で名を馳せた東洋大学の教授(当時)が、東京都練馬区の温泉施設のロッカーから財布やブルガリの腕時計を盗んだとして、窃盗容疑で書類送検された。当時は世間の耳目を集めた事件だが、これを報じる3月31日の讀賣新聞には、「防犯カメラに容疑者に似た男が写っていた」とある。この防犯カメラは脱衣所に設置されていたと推測される。
平成25年の中日新聞朝刊三重版には、先頭の脱衣所で財布から現金を盗んだとして24歳無職の男が逮捕されたと、ベタ記事で報じている。「脱衣所の防犯カメラの映像から割り出した」という。
防犯カメラは女性用の脱衣所にも設置されている。「トリップアドバイザー」のサイトには、東京の温泉施設の女性脱衣所に監視カメラが設置されているという抗議の書き込みがある。その他、「温泉&防犯カメラ」や、「更衣室&監視カメラ」でググれば、会社や学校の更衣室に設置されたカメラについて、賛否両論(否定的意見の方が多いようだ)の書き込みがあるし、防犯サービスの会社のサイトを見ると、「銭湯、温泉、娯楽施設での防犯カメラ導入事例」として、火災報知器にカモフラージュした隠しカメラを宣伝している。
これらのカメラ設置は違法だろうか。
カメラ設置の合法性判断基準に決まりはないが、私は①目的の正当性、②撮影と目的の合理的関連性、③合理的代替手段の不存在、④被侵害利益の重大性と比較し、撮影されても受忍限度内にあるといえるか、の4つの基準をクリアすることが必要だと考える。
この基準に照らした場合、①の防犯目的は正当だし、②カメラの設置と防犯目的の達成の間には、合理的関連性がある。だが、問題は③と④だ。
上の記事にもあるとおり、更衣室内の盗難は、カギつきロッカーの導入や、貴重品預かり所の設置によってある程度対処可能だから、合理的代替手段不存在の基準を満たすかは疑問がある。また、全裸を撮影されないという法的利益は、かなり重大なプライバシー上の権利である。これ以上プライバシー性の高い場所は、トイレの個室とベッドルームくらいしかないだろう。結論としては、違法の疑いが強いと考える。
もし適法とされる余地があるとすれば、録画映像を人間が見るのは盗難事件等が起きた場合に限られることとし、平時は人間が見ることなく、一定の期間経過後に自動的に消去される、という運用がなされている場合だろうか。この場合でも、適正な運用を担保する手当は欠けているが、そこは信頼関係の問題といえるのかもしれない。
更衣室の監視カメラが適法だというなら、JR大阪駅で通行人を撮影して人流統計データを作成したり、ジュンク堂が来店者を撮影して万引犯のリストと照合したりする行為が違法となる余地はないだろう。
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