7月27日毎日新聞は、「顧客分析 車のナンバーで 自動読み取り、車検証情報と照合 進むビジネス化」と題する記事を載せた。店舗備え付けのカメラで自動車のナンバーを読み取り、オンラインで照会すると、「車種とメーカー、町名や大字までの住所が返信される」ため、これに基づいて顧客分析を行うという。違法ではないが、記事は「いい気持ちはしない」という男性の感想を載せたうえ、「一部企業には車検情報へのアクセス権を認め、個人には認めない不公平が問題だ」と結んでいる。
問題提起という意味では良記事だが、惜しいことに、微妙に外していると思う。私の考えでは、本質は二つあるが、記事は二つを不当に混同している。
本質の第一は、自動車登録情報制度公開の問題だ。自動車登録情報や、車のナンバーは、個人情報保護法に照らせば個人情報または識別情報にあたるけれども、道路運送車両法上、個人情報保護法の適用が排除され、公開情報とされている。弁護士としてすぐ思いつく同様のものとしては、不動産登記情報や、商業登記情報がある。ここでは、所有者や代表者の氏名住所が一般に公開されている。
これらの制度が個人情報を公開する原理は「責任」だ。つまり、不動産の所有者や、会社の代表者には、責任者が誰かを公示するべきである、という社会的要請があって、その要請は個人情報保護の要請を上回る。
ただ、自動車については、2006年の法改正によって、登録情報の公開範囲が大幅に制限された。改正の背景には悪用事例の多発があったとされ、個人情報保護の側に重心を移動させたわけだが、本当にそれで良いのかは、記事指摘のとおり、疑問が残る。「自動車所有者の責任が問題となるのは事故の時で、その時は警察が所有者を把握しているから、一般に公開しなくても良い」という意見もありうるが、事故だから必ず警察が出てくるとは限らないし、犯罪にならない迷惑行為や、民事紛争の相手が誰かを知るために、自動車登録情報が必要な場合だってある。なにより、個人情報保護の名目で、特定の組織が個人情報を独占的に管理させることが、本当に個人情報保護になるのか、という根源的な問題がある。
本質の第二は、顧客のプライバシーの問題だ。記事は自動車ナンバーのオンライン照会制度に焦点を当てているが、そんな制度がなくたって、同様のビジネスモデルは実施可能だ。車種やメーカーは、改造車でない限り、画像から判別できるし、登録地域はナンバープレートに記載してある。顔認証システムや、ポイントカード情報と連動させれば、詳細な顧客分析が可能になる。もちろん、このようなシステムを不愉快に思う顧客もいるだろう。だが、このようなシステムを正面から違法といえるほど、我が国の法制度は整備されていない。無断で顔認証による顧客管理システムを導入することについては、違法とする見解もあろうが、顔認証システムを導入しなくても、数%の割引や景品と引き換えに、ポイントカードに個人情報を登録する顧客はいくらでもいるだろう。
つまり、自動車登録情報(またはそのオンライン照会制度)の持つ問題点と、「自動車ナンバー自動読み取りによる顧客分析」のビジネスモデルが持つ問題点は、別の問題である。いいかえれば、前者は「プライバシーと責任」の問題であり、後者は「プライバシーとマーケティング」の問題だ。この二つを区別せず論じてしまったことが、記事の残念なところだと思う。
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